
目次
- 光を「つくる」のは、電球ではなく素材である
- ガラス素材——透明性と鋭さが生む、凜とした光
- 布素材——拡散と温もりが、室内に奥行きをつくる
- 金属素材——反射と陰影が、空間を彫刻する
- 素材を組み合わせるとき、何を優先すべきか
- リノベーション計画における照明素材の選定順序
- まとめ
- FAQ

光を「つくる」のは、電球ではなく素材である
照明計画を語るとき、多くの場合は光源の色温度や照度の数値が先に議論される。しかし、空間に実際に降り注ぐ光の質感——柔らかいか、鋭いか、温かいか、冷たいか——を最終的に決定するのは、シェードやボディを構成する素材である。
同じ電球を使っても、ガラスのシェードを通した光と、リネンのシェードを通した光では、室内の印象がまるで異なる。前者は光源の輪郭をくっきりと残し、後者は光を均一に散らして輪郭を溶かす。この差異は、壁の色や家具の配置と同じくらい、空間の雰囲気を左右する。
弊社の施工事例を振り返ると、照明器具の素材を後から変更することで、完成後の空間の印象が大きく変わったケースが少なくない。リノベーション計画において、照明素材の検討を仕上げ材や家具と同じ優先度で扱うことが、私たちが一貫して提案してきた姿勢である。
本稿では、代表的な三つの素材——ガラス、布、金属——それぞれが光にどのような性質を与えるかを整理し、素材の組み合わせ方、そしてリノベーション時の選定プロセスについて、順を追って考えていく。

ガラス素材——透明性と鋭さが生む、凜とした光
ガラスは、素材の中でもっとも光の性質を多様に操ることができる素材である。透明ガラス、乳白ガラス(オパールガラス)、気泡ガラス、型板ガラス——加工の仕方によって、光の透過率と拡散の度合いが大きく変化する。
透明ガラスと乳白ガラスの違い
透明ガラスのシェードは、光源そのものを視覚的に露出させる。光の輪郭が明確に残るため、空間に「点」としての光が生まれる。これは、テーブルの上や特定のオブジェクトを照らすスポット的な用途に適しており、ダイニングテーブルの真上に吊るすペンダントライトとして使われることが多い。弊社の施工事例でも、天井高を確保したリノベーション物件において、透明ガラスのシェードをダイニングに採用した際、食卓面の照度を高めながら天井への光の広がりも確保でき、空間の縦方向のスケール感が強調された。
一方、乳白ガラスは光を内部で散乱させ、光源の輪郭を消す。シェード全体が均一に発光しているように見えるため、光源の「点」ではなく「面」として空間に溶け込む。まぶしさが抑えられ、視線が器具に向いても不快感が少ない。リビングや寝室など、長時間滞在する空間での使用に向いている。
気泡ガラス・型板ガラスがもたらす表情
気泡ガラスや型板ガラスは、光を透過しながら同時に屈折・散乱させる。点灯時には光の揺らぎや模様が壁や天井に投影され、空間そのものが照明の一部になる。消灯時も素材としての存在感があり、昼間の自然光の中でも美しく機能する。弊社代表の経験では、築30年以上のマンションをリノベーションした案件において、廊下に型板ガラスのペンダントを採用したことで、日中の採光補助と夜間の演出を一つの器具で担わせることができた事例がある。

布素材——拡散と温もりが、室内に奥行きをつくる
布(ファブリック)シェードは、光を最も柔らかく拡散させる素材である。繊維の隙間を光が通過する際に散乱し、光源の鋭さが完全に失われる。結果として、空間全体が均質な温かみに包まれるような効果が生まれる。
素材の密度と色が光に与える影響
布シェードの光の質は、生地の密度と色によって大きく変わる。薄手のリネンや綿は透過率が高く、光がシェードを透けて外側にも広がる。厚手のウールや二重構造の生地は透過率が低く、シェードの下方向への光の指向性が強まる。
色については、白やオフホワイトの生地は光の色温度をほぼそのまま透過させる。ベージュやグレーがかった生地は、光をわずかに暖色寄りに変化させる傾向がある。弊社施工事例では、北向きの部屋に白いリネンシェードのフロアランプを採用した際、自然光の不足を補いながら昼夜ともに空間のトーンが安定した、という報告を施主から受けている。
布素材が空間にもたらす「静けさ」
布シェードの大きな特性の一つは、光の輪郭を完全に消すことで空間から「緊張感」を取り除く点である。ガラスや金属が持つ硬質な反射がなく、視覚的なノイズが少ない。寝室や書斎、あるいは子どものいる家庭のリビングなど、落ち着きを求める空間に布素材は特に馴染みやすい。
また、布素材はインテリア全体のファブリックとの連続性をつくりやすい。カーテンやクッションカバーと素材感を揃えることで、空間に統一したテクスチャーの層が生まれる。弊社代表の経験では、ウールのラグと同系統の素材感を持つシェードを組み合わせた事例において、施主から「空間がひとつの塊として感じられるようになった」という感想を受けた。素材の呼応が、インテリアに一体感をもたらす好例である。

金属素材——反射と陰影が、空間を彫刻する
金属シェードは、光を透過させるのではなく反射と遮断によって操る素材である。光はシェードの内側で反射し、開口部の方向に集中して放たれる。これにより、空間に明確な「明部」と「暗部」が生まれ、陰影のコントラストが際立つ。
仕上げの違いが生む、光の表情の差
金属素材の照明器具は、仕上げの種類によって光の反射の仕方が大きく異なる。
- 鏡面仕上げ(ポリッシュ): 光を鋭く反射し、照射面のコントラストが最大になる。スポットライト的な効果が強く、建築的なアクセントとして機能する。
- マット仕上げ(サテン・ブラッシュ): 光を拡散反射させ、照射面のコントラストが和らぐ。シェードの存在感を抑えながら、穏やかな指向性の光をつくる。
- 塗装仕上げ(マットブラック・マットホワイトなど): 反射率がさらに下がり、光の広がりは最小限になる。シェード自体が空間の中で彫刻的なオブジェとして機能する。
弊社施工事例では、天井高3.2メートルのリノベーション物件において、マットブラックの金属シェードを持つペンダントライトを採用した。器具の存在感が空間に垂直方向のアクセントを与え、天井の高さをより意識させる効果が生まれた。照明器具が「光を届ける道具」ではなく「空間を構成するオブジェ」として機能した事例である。
金属素材と空間の硬さ・柔らかさのバランス
金属素材は硬質な印象を持つため、空間全体のバランスに注意が必要である。石材や無垢材、コンクリートなど硬質な仕上げ材が多い空間では、金属照明との相性は高い。一方、漆喰や布クロス、柔らかな木材が中心の空間では、金属照明が浮いて見えることもある。
弊社代表の経験では、漆喰壁のリノベーション物件に鏡面仕上げの金属シェードを採用した際、壁の柔らかさと器具の硬さが対比として機能し、意図的な緊張感が生まれた事例がある。素材の対比を「違和感」ではなく「対話」として活かすには、空間全体の素材構成を俯瞰した上での選定が不可欠である。

素材を組み合わせるとき、何を優先すべきか
実際のインテリアでは、一つの素材だけで照明計画が完結することは少ない。ダイニングのペンダント、リビングのフロアランプ、寝室のウォールライト——それぞれに異なる素材の器具が並ぶことが多く、その組み合わせ方が空間の統一感を左右する。
「素材の統一」か「素材の対話」か
照明素材の組み合わせには、大きく二つのアプローチがある。
一つは素材を統一するアプローチ。空間内の照明器具を同じ素材でまとめることで、視覚的な一体感が生まれる。たとえば、リビングからダイニングにかけてすべてを乳白ガラスで揃えると、光の質が均質になり、空間が穏やかにつながる。この手法は、広めのLDKや開放的な間取りで特に有効である。
もう一つは素材を対話させるアプローチ。異なる素材を意図的に組み合わせ、空間に変化とリズムをつくる。たとえば、ダイニングに金属シェードのペンダントを配し、リビングに布シェードのフロアランプを置くと、食事の場の明確さと寛ぎの場の柔らかさが、一つの空間の中で共存する。
弊社の施工事例では、後者のアプローチを採用したケースで施主の満足度が高い傾向がある。空間が「一枚の絵」として完結するよりも、場所ごとに光の質が変化することで、生活の場としての奥行きが生まれるためと考えられる。
素材選定の基準となる三つの問い
- その場所で、光の「輪郭」を見せたいか、消したいか。
- 器具を「存在させたい」か、「溶け込ませたい」か。
- 空間の仕上げ材との関係は「呼応」か「対比」か。
この三つの問いに答えることで、素材の候補は自ずと絞られてくる。色温度や照度の数値を先に決めるのではなく、まずこの問いを立てることが、照明計画の質を高める最初の一歩である。

リノベーション計画における照明素材の選定順序
リノベーションは、新築とは異なり、既存の躯体や間取りの制約の中で空間を再構築する作業である。照明計画においても、この「制約の中の選択」という視点が重要になる。
天井・壁の仕上げ材が決まる前に、照明素材を仮決めする
多くのリノベーション計画では、床材や壁の仕上げ材が先に決まり、照明器具は後から選ばれる傾向がある。しかし、照明素材が空間の光の質を決定する以上、この順序は逆であることが理想的である。
弊社が提案するプロセスは以下の通りである。まず、各部屋の「光のトーン」を言語化する(柔らかく均質な光が欲しいのか、陰影のあるドラマティックな光が欲しいのか)。次に、そのトーンを実現する素材を仮決めする。そして、仮決めした照明素材を基準に、壁や床の仕上げ材を選定する。この順序で進めることで、照明と仕上げ材が互いを高め合う関係が生まれやすい。
既存の建築要素との対話
リノベーションでは、解体後に現れる既存の梁や柱、コンクリートの躯体など、新築では生まれない素材との対話が生まれることがある。これらの既存要素は、照明素材の選定に大きなヒントを与える。
たとえば、現しにしたコンクリートの天井には、金属素材の器具が持つ硬質な反射が呼応しやすい。古い木梁が残る空間には、布や乳白ガラスの柔らかな光が馴染みやすい。弊社施工事例では、解体時に現れた煉瓦の壁に対して、気泡ガラスのペンダントを採用した事例がある。ガラスの揺らぎが煉瓦の不均質なテクスチャーと響き合い、素材同士が時代を超えて対話するような空間が生まれた。
メンテナンスと経年変化も素材選定の基準に
照明器具は、インテリアの中でも比較的長期間使用されるアイテムである。素材によって経年変化の仕方が異なり、それが空間の印象を変えることもある。真鍮(ブラス)の金属素材は、使用とともに酸化が進み、独特のパティナ(経年による色の深み)が生まれる。これを「劣化」と見るか「育ち」と見るかは、居住者の価値観による。布素材は、光や埃の影響を受けやすく、定期的な交換が必要になる場合もある。ガラスは経年変化が少なく、長期間にわたって初期の光の質を維持しやすい。※出典: 各素材の経年変化に関するデータは製造元資料を要追加
弊社代表の経験では、真鍮仕上げの照明器具を採用した施主から、数年後に「器具が空間に馴染んできた」という報告を受けることが多い。経年変化を設計の一部として組み込む視点は、リノベーションにおいて特に重要である。

まとめ
照明器具の素材は、空間の光の質を根本から決定する要素である。ガラスは透明性と鋭さを持ち、乳白・型板・気泡といった加工によって光の拡散の度合いを細かく調整できる。布は光を最も柔らかく均質に拡散させ、空間から緊張感を取り除く。金属は光を反射・遮断することで陰影のコントラストを生み出し、器具自体が空間を彫刻するオブジェとして機能する。
これらの素材は、単独で選ぶのではなく、空間全体の仕上げ材や家具との関係の中で選定されるべきである。「統一」か「対話」か——素材の組み合わせ方の方針を持つことで、空間に意図が生まれる。
リノベーション計画においては、照明素材の検討を早い段階から始めることが、空間の完成度を高める。床材や壁の仕上げ材が決まってから照明を選ぶのではなく、照明素材が決まった後に内装を選定する——この順序の逆転が、私たちが施主に繰り返し提案してきた考え方である。
光は見えないが、素材は見える。そして素材が光を変え、光が空間を変える。照明計画を素材の視点から捉え直すことで、リノベーションの可能性はさらに広がる。色温度の数値や照度の計算の前に、まず「どんな素材を通した光の中で暮らしたいか」という問いを立てることが、すべての出発点になる。
よくあるご質問
照明器具の素材を選ぶとき、最初に考えるべきことは何ですか。
まず「その空間でどんな光の質を求めるか」を言語化することが出発点です。柔らかく均質な光が欲しいなら布や乳白ガラス、陰影のあるコントラストが欲しいなら金属、透明感と鋭さが欲しいなら透明ガラスが候補になります。素材の技術的な特性よりも先に、暮らしの中での光のイメージを持つことが、選定の精度を高めます。
リノベーションで照明器具を後から変えることはできますか。
配線の位置や天井の開口が確保されていれば、器具の交換自体は比較的容易です。ただし、照明素材が空間の仕上げ材や家具との関係の中で機能するため、後から変えると全体のバランスが崩れることもあります。理想的には、リノベーション計画の初期段階から照明素材を検討し、内装と同時に設計することをお勧めします。
金属素材の照明器具は、どのような空間に向いていますか。
コンクリートや石材、スチールなど硬質な仕上げ材が多い空間との相性が高いです。また、天井高のある空間では金属シェードの存在感が縦方向のアクセントとして機能します。一方、漆喰壁や柔らかな木材が中心の空間でも、意図的な対比として採用することで緊張感のある空間が生まれる場合があります。
布シェードの照明器具は、経年でどのように変化しますか。
布素材は光や埃の影響を受けやすく、長期間の使用で変色や汚れが生じることがあります。薄手のリネンや綿は特に光による退色が起きやすいため、定期的なケアや交換を前提に選定することが現実的です。一方、生地の交換ができるタイプの器具を選ぶことで、素材感を維持しながら長く使い続けることも可能です。
一つの空間に複数の素材の照明器具を混在させてもよいですか。
素材の混在は、意図を持って行えば空間に豊かなリズムをもたらします。たとえば、食事の場に金属シェードのペンダントを配し、寛ぎの場に布シェードのフロアランプを置くことで、場所ごとの光の質の違いが生活の場としての奥行きを生みます。混在させる際は「素材を統一する」か「対話させる」かの方針を明確にした上で選定することが、まとまりのある空間をつくる鍵です。